>>WTO加盟

昨年12月11日、1986年のGATT加盟申請以来15年を要した中国WTO加盟交渉がようやく終結し、中国は143番目のWTO加盟国になった。交渉の合意内容やそれにより中国各産業が受ける影響については、既に多くの論考がある。このため、本稿では少しアングルを変えて、WTO加盟交渉とコインの裏表のように進んできた中国経済の変貌(改革開放)に触れてみたい。  

WTOの本質は一言で言えば「市場経済原理」だ。貿易の障壁や差別 取り扱いを極力取り除いて、世界経済に可能な限り市場経済原理を及ぼすことが世界経済の厚生を最大化するという理念である。そして、累次のラウンド交渉による障壁の低減と新たなルール作り、特にWTOへの移行に伴い、サービス貿易や知的財産権の保護にまで規律範囲を拡大したことで、市場経済原理の普及者の性格は、更に強まった。

各産業界への影響

《アパレル輸出

1994年から世界最大のアパレル輸出大国になった中国は、近年では世界のアパレル貿易総額の約15%を占めるまでになっている。中国からのアパレル輸出額は98年には429億ドル、翌99年には431億ドルに達し、輸出総額の約23%を占めた。

WTO加盟が大量輸出のチャンスに

  • WTO加盟は中国のアパレル輸出にとっても大きな発展のチャンスである。とくにWTOの枠組みの中での繊維協議(ATC)が、新たなアパレル輸出の好機をもたらすことが注目されている。
  1. WTO加盟後、中国はATCにより現在の割当枠の年増加率をベースに25%の増加率が認められる。2002年にはさらに27%まで上がる。これを基に計算すると、中国のアパレル輸出は毎年5,000万ドルの増加が可能になる。
  2. ATCの規則によると、2002年には米国が一部割当枠を廃止する。これもまた中国には輸出の好機となる。
  3. 2005年には世界のアパレル貿易が自由化され、中国にとって大きなチャンスをもたらす。
  4. WTO加盟後、欧米諸国は違法な中継方式で中国の割当額を減らすことが難しくなるため、中国は正常な輸出を保障される。
  5. 現在、日本は中国の撚糸と未加工絹織物についての輸入を制限しているが、ATCの規定によりこの制限も徐々に廃止される。これらの製品についても正常な輸出を行えるようになるであろう。
  • 先進諸国が反ダンピング措置で中国のアパレル輸出を制限しているが、WTO加盟後は、反ダンピング自体が制約を受けるようになる。
  • 中国のWTO加盟後、先進諸国のアパレル製品輸入関税が引き下げられる可能性がある。現在、先進諸国の一般製品の関税が3.8%であるのに対し、アパレル製品の関税は15%から20%である。これら関税が引き下げられれば、中国のアパレル製品の輸出競争力は大幅な増大が期待できる。

WTO加盟がもたらす試練

  1. ATCにより割当枠が徐々に廃止されるのに伴い、中国は諸外国と同じスタートラインに立つ。
    長期にわたり、国有アパレル企業は、債務、人件費、労働生産性の低さといった問題を抱え、企業制度が不健全のままである。また、郷鎮企業や、中小企業も技術的に遅れており、条件的には不利な立場に立たされている。

    中国アパレル業界のボトルネックである捺染業界には、設備の老朽化や生産技術の立ち後れなどの問題が存在し、必然的に品質で劣ることから、輸出用のアパレル製品を生産するために毎年60−70億ドルの生地を輸入せざるを得ない。高級品になるほど生地を輸入に頼る傾向が強く、WTO加盟後は市場が開放され、国外の生地が大量に国内市場に入って来る。中国の捺染業界への圧力は一層強まることになるだろう。

  2. 途上国の挑戦を受ける。
    東南アジア、南アジア、北米、南米などの途上国にはアパレル生産の歴史があり、近年、新たなアパレル生産大国として頭角を現している国もある。中国よりさらに優遇された政策を受け、労働生産コストもより低く、中国の競争相手となるだろう。

    北米自由貿易協定により、米国はこれまで他国から輸入していた製品をカナダ、メキシコから購入するようになってきた。また、欧州のアパレルメーカーも徐々に労働力の低廉なトルコや東欧諸国に進出している。トルコ、東欧諸国は"経費の安さ"、"納期の短さ"、"距離の近さ"、"関税の低さ"などの点において有利な条件を持っており、欧州アパレル市場を押さえている。


  3. 技術の壁に直面する。
    中国がWTOに加盟すると、先進諸国はアパレル製品に対して、より一層厳しく品質の向上を求めるようになるだろう。現在、欧州、米国、日本が輸入アパレル品について環境保護条件を設けており、検査測定技術で相対的に立ち後れている中国にとっては、厳しい試練となる。


《コンテナ輸送》

推計によると、WTO加盟で中国のGDPは年3ポイント、300億ドル相当増加し、対外貿易総額は1998年の3,200億ドルから2005年には、6,000億ドルと約倍増、外国からの対中国投資総額も98年の456億ドルから2005年には1,000億ドル近くに増加すると見られている。そして、WTO加盟後の海上コンテナ輸送には、以下のような影響が予想されている。

  1. 中国のコンテナ輸送量が増加する
    中国の対外貿易貨物の90%は海上輸送を通じて運ばれ、中級以上の商品はコンテナ輸送を採用している。WTO加盟後、同加盟国との間で商品の交易の自由度が増し、コンピュータ、通信機材、建材、食品、精密機器、工業部品など国外の有力商品が大量に中国市場へ運び込まれることになる。中国のアパレル製品、手工芸品、特産品などの有力商品も制限を受けることなく国外へ運び出される。

    これら輸出入商品のほとんどはコンテナ輸送が適している。中国の対外コンテナ輸送量は増加し、中国のコンテナ船
    のフレート数、コンテナ船舶の輸送量、港湾のコンテナ取扱量、物流企業のコンテナ物流量、船舶代理業の船腹代理量、貨物輸送代理業のコンテナ貨物代理量、コンテナ総合修理サービス業の修理量、コンテナリース業のコンテナリース量は大幅な増加となる予定である。


  2. 国際資本の誘致と中国のコンテナ輸送システムの強化につながる
    WTO加盟により、外商投資企業は中国への参入が容易となるため、コンテナ輸送施設建設のための投資環境が大幅に改善される。これにより、中国のコンテナ埠頭とコンテナステーションの建設が強化され、機能性が高まることになる。また、コンテナ複合輸送と物流施設設備の相互連携に好機をもたらし、外資導入にも有利な条件となる。

  3. 競争が激化する
    WTO加盟後、中国は加盟国としての最恵国待遇と国民待遇、そして市場への参入を認められ、同加盟国のコンテナ輸送市場に参入することになる。一方で、加盟国も中国のコンテナ輸送市場に進出してくるだろう。コンテナ輸送の定期便市場、定期便輸送サービス市場、コンテナ港湾サービス市場、コンテナ埠頭建設市場、コンテナ埠頭およびCFS(コンテナ・フレート・ステーション)建設などは、国際ルールに則って行わなければならない。

    このようにコンテナ輸送業者の市場競争はますます激しさを増す。その結果、コンテナ市場全体が供給過剰に陥り、全体の業務量は増えるものの、参入業者の大幅な増加により、利益率は縮小していく。そのため悪性の競争が起きる可能性もある。中国のコンテナ複合輸送と物流業の基礎は非常に脆弱で、そこへ国外の大型物流企業が参入してくるのだから、物流業への圧力はかなり大きいものとなる。  


観光業》

WTO加盟によって、観光業全体に大きなメリットが期待されている。観光業は最も早い時期に開放された業種であり、常に対外開放の先頭に立ってきた。現在のところ旅行会社の設立はまだ自由化されていないが、観光業に関係する宿泊、飲食、ショッピング、娯楽などの分野はすでに対外開放されており、それらの分野では適応の問題はない。

観光業は市場化が比較的進んだ産業で、市場の運営メカニズムも他の業界より健全である。計画経済の影響も小さく、さらに自由化が進んだとしても容易に対応できよう。観光業は他の業界との関連性が強い産業なので、WTO加盟により各業界の規制緩和が進めば、観光業の発展によい相乗効果をもたらすことになろう。

  1. 観光業発展への環境がより有利に
    すでに三つの分野で開放が進んでいる。金融業の規制緩和により観光業の代金決済が便利になり、サービス全体の競争力が向上した。さらに情報産業の発展が、電子商取引、販売網、運営方式などの近代化を促進するであろう。輸入自動車の関税引き下げにより、長年問題となっていた観光用車輌の供給不足も解決し、また、関税の引き下げは高級ホテルの物品調達コストを引き下げる働きもある。

  2. 国際規格に合致した運営メカニズム確立に有利に
    WTO加盟後は、外国企業が資金や技術をもって中国の観光市場に参入し、事業を展開することになる。観光の市場競争が激化するとともに、国内企業に明確な経営モデルを示し、規範化を促す効果が期待される。これは中国の観光業がより国際ルールに沿った運営方法を導入し、確立していく上で有利に働く。

    他の業種に先駆けて開放された外資系ホテルは、効果的に供給を増やしながら観光業の発展を促進してきた。短期間に先進レベルの管理方法を取り入れ、中国のホテル業をいち早く国際的な水準にまで成長させた。WTO加盟によって、観光業の各分野は国際ルールに則った運営とその効率化が求められるため、最終的には観光業発展の環境を整える効果が期待できる。

  3. 国外からの旅行客の増大が期待できる
    WTO加盟後は、外国の旅行会社は合弁あるいは100%外資で企業の設立が許可されるようになる。中国市場への参入のチャンスも増え、それが直接外国人旅行者の増加につながるだろう。また、外国の投資者が中国を訪れる機会も増え、商用旅行においても市場の拡大が期待できる。


《金融業》
 
中国の金融分野に対するWTO加盟の影響は次のような面で現れそうだ。

  1. 国際収支、経常科目の規模が拡大し、管理がより困難になる。
    1998年に中国の輸出入規模は3,200億ドルに達したが、WTO加盟後の2005年には6,000億ドルに達する可能性がある。これにより必然的に外貨管理の作業量が増大するため、管理が難しくなるだろう。貿易額の大幅な増加と同時に、輸送料、保険、銀行の収支などの輸出入関連費用も拡大する。そのため、貿易外経常科目の収支も拡大する。また、WTO加盟によって、中国は観光地として外国人旅行者に選択される率が高くなり、中国の観光収入が著しく増加し、金融業の発展に寄与することとなる。

  2. WTO加盟後も、中国の外貨交易センターのレート決定原則は変わらず、外貨価格も市場の需給関係に基づいて決められる。ゆえに人民元価格への影響は限定的である。WTO加盟による人民元レートへの影響は、現在多くの関心を集めている問題である。1994年の年初に人民元レートが一本化され、人民元の公定レートと外貨市場での調整価格が統合され、人民元は市場価格となった。94年年初の1ドル8.70元が、現在では1ドル8.28元である。5年余りで0.42元の上昇は、年平均上昇率が1%足らずと、人民元は安定したレートで推移しているといってよい。94年4月には上海に外貨取引センターが設立され、レートは外貨市場の需給関係によって決定されるようになった。

  3. 資本科目については管制を続けるが、世界各国との貿易関係の発展には影響しない。WTOは、関係する国家が一定期間内に資本科目下の為替の自由化を求めておらず、妥結事項にもこの点は含まれていない。
    WTO加盟後、中国の証券市場が自由化されると、株式市場の発展に有利になると考える向きもある。一国の証券市場が自由化されるかどうかは、債券と株式の市場開放問題、資本科目下の為替の自由化ができるか否かという問題に関わってくる。中国は1996年に経常科目下の為替の自由化を認めたが、資本科目はまだ管制下にあり、為替の自由化は実行されていない。資本科目下の為替の自由化を実行するか否か、それは主に国家の受入れ能力で決まってくる。それを超えてあまりにも早く自由化を実行した場合、その国の経済発展に不利なものとなる。

  4. 最大の問題は、外資の中国金融市場への参入を認めることである。
    ここ数年を振り返って見ると、中国は金融分野、特に金融機構の設立と業務経営範囲などの面で、相当進歩した。例えば(1)中央銀行の管理体制と、国有商業銀行の管理体制改革を積極的に推進し、分業経営、分業管理を実行し、金融マクロコントロールおよび銀行の管理監督という二つの管理の水準を向上させてきた。(2)98年1月1日から商業銀行の貸出限度額に対するコントロールが廃止され、資産負債率や、リスクの管理が実行され、預金準備制度の整備を行っている。(3)金融サービス市場の対外開放に一層力が入れられ、外資金融機構、外資保険機構が争って開業している。現在、中国国内には各種の外資金融機構が544件設立され、中国金融業の重要な構成部分になっている。

     WTO加盟後、中国はWTOの要求に基づいて国民待遇を実行し、外資金融機構と国内金融機構は同業として競争することになる。中国の金融業にとっては試練であり、力をそがれるおそれもある。外商投資企業が外資金融機構の支援で市場や産業の独占状態を生み出す可能性もある。  
     

       

《商業と物流》

WTO加盟の最大の衝撃は商業分野に生じる。大多数の製品で、流通、販売の管制が解かれ、その衝撃の現象は二つの方面で見られることになる。第一に、物流と小売が独立した業種として発展するための好機が訪れる。第二に各企業がアフターサービス、ルート管理などの面で争奪を繰り広げる。中国の物流業は非常に立ち後れており、それだけに巨大な改革の可能性を秘めている。WTO加盟の影響を長期的に見ると、メーカー、販売、小売が手を携え、中国の供給ルートの連携を推進し、効率性と収益性を追求することになるだろう。

最近、中国で最も人気のある投資対象はインターネットと電子商取引だが、WTO加盟後は、この業種も国内外企業に大きく門戸を開くことになる。だが、中国の電子商取引の発展で障害となるのは配送と決済の問題である。全国規模のチェーン店網が不足しているため、電子商取引企業は、多くの協力パートナーを捜し、配送と決済を含めた物流ネットワークを確立しなければならない。中国が電子商取引関連の法案および規則を改善し、物流と配送サービス業界全体が近代化するならば、中国における電子商取の可能性はきわめて大きいということができる。



《農業》

まず、WTO加盟によって加盟国間での無差別な貿易待遇を享受できることは、中国の農産品輸出にとって有利な環境といえる。また、WTO新ラウンド協議に参与できるようになり、WTOでの活動が、「受動的に規律を遵守する」側から「主動的に規則を制定する」側へ転じ、そして国外からより多くの資金、技術、管理ノウハウを農業領域に誘致する面で中国に有利にはたらく。同時に、国際的貿易環境が改善されることで、中国の農業がその特長を十分に発揮し、より広範な国際競争に参加できる点でもメリットが期待される。

だが一方では、非関税措置の廃止、関税の引き下げ、国内農産品市場の対外開放の拡大を迫られるため、農業と農村の発展にマイナス影響が生じることも避けられない。

  1. 主な農産品に一定の影響
    近年、中国の主要農産品(特に食糧)生産コストは毎年平均10%の速度でアップし、小麦、トウモロコシ、大豆、綿花、油、食糖などの大口農産品の国内価格は国際価格より高くなっている。そのため、競争力がなく、WTO加盟後は、これら農産品への圧力が増大し、大口農産品の主要生産地域とその従事者に不利な影響が生じよう。特にトウモロコシ、大豆の主産地である東北地域への影響は大きい。

  2. 農村社会の経済的矛盾の解決がさらに困難に
    中国の農村は現在、農産品の販売難、収入増加の伸び悩み、労働力移転の障害など多くの問題を抱えているため、種々の矛盾が堆積しており、これらの問題はWTO加盟、市場開放に伴い顕在化してくる可能性がある。

    だが一方、家族単位の経営方式が中国の農業に安定をもたらしている農村の現状を考えると、それほど簡単に衝撃を受けることはないだろう。また、大部分の農産品は商品率が低く、例えば食糧の商品率は高くても35%であり、65%は農民の自己消費である。したがって、市場からの影響がそんなに速く現れることはないだろう。